■U期例が少ないことについてのコメント
- 一般に肺がんは発生してから徐々に増大しますが、(リンパ節)転移が始まるまでの期間はかなり長く、(リンパ節)転移が始まる頃には急速に増加・進展(指数関数的にがん細胞が増加)します。肺門リンパ節領域(U期)は縦隔リンパ節に比較すると狭く、また個々のリンパ節も小さい。また症状もほとんど伴いません。したがって、がんの進展が始まるとU期としての経過が短く、縦隔リンパ節転移であるV期や遠隔転移であるW期になって発見されることが多くなります。
- 肺門リンパ節は小さいために、CTなどの検査で同部の転移(U期)をあらかじめ検出することが困難なことが多く、T期と診断されている可能性があり、当初からU期に分類される症例は相対的に少ないものと考えられます。特に非切除例ではその結果として、U期例は少なくなると考えられます。一方、手術例では術後検索により病期分類は容易ですが、それでも例数が多くないのは、U期にとどまっている期間が短いためと考えられます。
- 実際、全国肺がん集計(1996年度)でもU期例は少ないです(Goya T, et al. Lung Cancer 50:227-34,2005.)。なお、この集計は手術例のみのものであり、多数を占める非切除例が含まれていないことには注意しておく必要があります。
■T期症例の生存率の施設間のバラツキに関するコメント
- T期症例にはTA期とTB期があり、T期例に対する標準治療である外科切除の5年生存率には臨床病期でも術後病理病期でも両者間で約20%近い差があります(約70% 対 約50%、Goya T, et al. Lung Cancer 50:227-34,2005.)。したがって、T期症例の治療成績はTA期とTB期の症例分布によって大きく左右されることになります。今回の集計では言及できませんが、概して、症例数の多い施設ほど(例えば、医師会カンファランスや検診体制がしっかりしていて、医療連携が確立している地域にある)、TA期の症例が多い傾向にあるようです。
- また、高齢者とくに75才以上の症例が多い施設(地域の総合病院型の多く)では、T期であっても高齢や併存症により標準的な手術が困難なために、縮小手術や放射線治療の対象となる症例数が相対的に多くなり、それが生存率を押し下げる可能性があります。これは、相対生存率の計算をしても十分に補正は困難です。
事務局より
全がん協の肺がんのデータは全ての症例(外科、内科、放射線科等)および手術症例で算出してあります。小細胞がん、非小細胞がんで分けたデータではありませんのでご注意ください。