全がん協加盟施設の生存率協同調査
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施設別生存率

胃・肺・乳・大腸・子宮の専門家にコメントしていただきました。下記コメントをよくお読みいただいて、施設別の生存率のページをご覧ください。
尚、このコメントは1999年〜2000年症例の施設別生存率についてのコメントです。


胃(C16)施設別臨床病期別5年生存率について
細川 治 (福井県立病院)
滝口 伸浩 (千葉県がんセンター)

胃がんの治療成績は向上しています。大阪府内の胃がん罹患者の5年生存率は、1970年代半ばで23.6%であったと記録されていますが、今回公表する1999年の5年生存率では大半の全がん協施設で胃がん5年生存率は50%以上です。1970年代半ばの2倍以上の生存率が普通であり、中には3倍を越えた施設もあります。しかし、生存率を公表する目的は施設間の治療成績を比較して、施設にランキングを付けることではありません。おのおのの施設で治療を受けた胃がん患者さんがどの程度の5年生存率を得られるのかをお示しして、胃がん診療の実態をご理解いただくためです。

全がん協が施設名を明示しての生存率を公表する最初の機会となります。そのため、各施設から集めた胃がん生存率データにも不十分な点があります。外科的切除、内視鏡的切除を行った胃がん患者さんだけの生存率で、切除できなかった患者さんのデータが提出されていない施設も混ざっています。そのような施設の生存率は実際より高くなります。胃がんの進行度にも施設ごとに大きな差異があります。早い時期であるT期の胃がん患者さんを多く治療する施設では全体の生存率が高いのに対して、W期という進展した患者さんを多く治療する施設では低くしか表れません。このように各施設の伝統や背景、性格などの特性が胃がん生存率の高低に大いに影響します。平均年齢、男女比、T期/W期比を見れば、各施設の胃がん患者さんがいかに一様でないかをご理解いただけると思います。確かに、相対生存率は年齢や性別の要因を調整して算出されますが、それでも、玄関に車を横付けできる地方の施設の胃がん患者さんに比較して、複数の交通機関を乗り継いで紹介受診した都会の施設のがん患者さんは、同年配であっても、がん以外の身体状況は優れています。このように数値に表れない胃がん患者さんの背景も生存率の裏側には隠されています。

今回公表するデータでは、この施設で胃がんの段階がこの病期であるとされた場合はこの程度の5年生存率が予想される、あるいはこの施設で胃がんの手術を受けたらこの比率の5年生存が期待できるといった具合にみていただきたいと考えます。胃がん治療の標準化、均てん化は進んでおり、全がん協加盟のどの施設でも質が高く、安全な医療が普及して来ています。


結腸・直腸(C18-20)施設別臨床病期別5年生存率について
固武 健二郎 (栃木県立がんセンター)
森 武生 (都立駒込病院)
  1. 結腸直腸の施設別5年生存率に施設間格差は認めない。

    表には5年生存率とともに「標準誤差」が示されている。生存率が95%の確率で再現される値を「生存率の95%信頼区間」といい、一定の幅のある区間で表される。具体的には、標準誤差を1.96倍した値を生存率に加算・減算した区間である。95%信頼区間が互いに重なる生存率は統計学的に有意な差はないと判定する。本集計は、各施設の症例数が少ないこともあり、多くの生存率の95%信頼区間は重なり合う。

  2. 結腸直腸癌の治療成績は病理病期による評価も不可欠である。

    一般に、結腸直腸癌の病期(ステージ)は、癌の腸管壁への進展(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)の3因子で規定される。結腸直腸癌では、TとNの確定診断には組織学的検査(顕微鏡による診断)が必要である。内視鏡検査やX線検査などの臨床診断に基づく臨床病期と組織学的検査に基づく病理病期はしばしば乖離する。癌の進行度をより正確に表現した病理病期による解析が是非とも必要である。なお。国際的に汎用されているデュークス(Dukes)分類は病理病期である。

  3. 結腸癌と直腸癌の病期別治療成績には差がある。

    5年生存率には、腫瘍側の要因、宿主(患者)側の要因、医療者側の要因が複雑に作用する。治療成績の格差を検討する際には、それらの要因を可能な限り調整することが望まれる。少なくとも、治療法や治療成績が相違する結腸と直腸は分けて解析する必要がある。

事務局より
施設別では結腸直腸を合わせて解析してありますが、1997年〜1999年のデータでは結腸と直腸は分けて解析してあります。全がん協加盟施設では結腸、直腸で生存率に差はありません。


肺(C33-34)施設別臨床病期別5年生存率について
野田 和正 (神奈川県立がんセンター)
湊 浩一 (群馬県立がんセンター)
矢野 篤次郎 (佐賀県立病院好生館)

■U期例が少ないことについてのコメント

  1. 一般に肺がんは発生してから徐々に増大しますが、(リンパ節)転移が始まるまでの期間はかなり長く、(リンパ節)転移が始まる頃には急速に増加・進展(指数関数的にがん細胞が増加)します。肺門リンパ節領域(U期)は縦隔リンパ節に比較すると狭く、また個々のリンパ節も小さい。また症状もほとんど伴いません。したがって、がんの進展が始まるとU期としての経過が短く、縦隔リンパ節転移であるV期や遠隔転移であるW期になって発見されることが多くなります。
  2. 肺門リンパ節は小さいために、CTなどの検査で同部の転移(U期)をあらかじめ検出することが困難なことが多く、T期と診断されている可能性があり、当初からU期に分類される症例は相対的に少ないものと考えられます。特に非切除例ではその結果として、U期例は少なくなると考えられます。一方、手術例では術後検索により病期分類は容易ですが、それでも例数が多くないのは、U期にとどまっている期間が短いためと考えられます。
  3. 実際、全国肺がん集計(1996年度)でもU期例は少ないです(Goya T, et al. Lung Cancer 50:227-34,2005.)。なお、この集計は手術例のみのものであり、多数を占める非切除例が含まれていないことには注意しておく必要があります。

■T期症例の生存率の施設間のバラツキに関するコメント

  1. T期症例にはTA期とTB期があり、T期例に対する標準治療である外科切除の5年生存率には臨床病期でも術後病理病期でも両者間で約20%近い差があります(約70% 対 約50%、Goya T, et al. Lung Cancer 50:227-34,2005.)。したがって、T期症例の治療成績はTA期とTB期の症例分布によって大きく左右されることになります。今回の集計では言及できませんが、概して、症例数の多い施設ほど(例えば、医師会カンファランスや検診体制がしっかりしていて、医療連携が確立している地域にある)、TA期の症例が多い傾向にあるようです。
  2. また、高齢者とくに75才以上の症例が多い施設(地域の総合病院型の多く)では、T期であっても高齢や併存症により標準的な手術が困難なために、縮小手術や放射線治療の対象となる症例数が相対的に多くなり、それが生存率を押し下げる可能性があります。これは、相対生存率の計算をしても十分に補正は困難です。



肺がん臨床病期別生存曲線 1996年切除例 全国肺がん集計 6644例



肺がん術後病理病期別生存曲線 1996年切除例 全国肺がん集計 6644例


以上すべてPrognosis of 6644 resected non-small cell lung cancers in Japan: A Japanese lung cancer registry study. Goya T, et al. Lung Cancer 50:227-34, 2005.より引用


事務局より
全がん協の肺がんのデータは全ての症例(外科、内科、放射線科等)および手術症例で算出してあります。小細胞がん、非小細胞がんで分けたデータではありませんのでご注意ください。

乳(C50)施設別臨床病期別5年生存率について
田部井 敏夫 (埼玉県立がんセンター)
柳田 康弘 (群馬県立がんセンター)
  1. 一般的に乳がんは、他のがんに比べて増殖が遅いといわれている。このため、5年後の生存者は、治癒した方、乳がんが転移再発しながらも生存している方、5年以降に転移再発してくる方が含まれている。初期治療つまり最初に行われた手術や放射線治療、全身治療(薬物療法:内分泌療法、化学療法、抗体療法)の効果をみるためには、より長期の追跡が必要で、10年生存率がそれに近いと考えられる。よって乳がん診療における5年生存率は治癒率ではなく、初期治療の効果と転移再発後の延命効果が混在している。

  2. 乳がんの予後を改善させる治療は、局所治療(手術療法、放射線療法)でなく、初期の全身治療(薬物療法:内分泌療法、化学療法、抗体療法)である。よって、予後をより改善するためには、適切な初期の全身治療(補助療法)が重要である。

  3. 乳がんの臨床病期は、
    T::腫瘍径を触診や画像(超音波、CTなど)で計測
    N:腋窩リンパ節転移の予測を触診や画像で診断
    M:遠隔転移は、CT、骨シンチなどの画像で診断。遠隔転移の検査が行われていないときは、ほとんど遠隔転移なしに分類されている。
    このため測定方法の違いと診断の相違により、同じ患者さんであっても、臨床病期が違う場合が生じてくる。

以上のことを御理解の上、乳がんの病期別5年生存率をごらんいただきたい。


子宮頸がん施設別臨床病期別5年生存率について
田中尚武 (千葉県がんセンター)

子宮頸がんの治療成績を解釈する場合、まず、各施設でどのような臨床病期についてどのような治療法が選択されるかを知ることが重要です。現在子宮頸がんの治療については「子宮頸癌治療ガイドライン(2007年度版日本婦人科腫瘍学会/編)」が2007年10月に出版され、各臨床病期に対し推奨される治療法が示されています。今回示される施設別治療成績の元になる対象患者は治療ガイドラインが作成される前に治療がなされた患者であり、各臨床病期に対し選択される治療内容は、各施設で多少異なる可能性があることを前提として認識しておく必要があります。

従来、我が国では一般的に臨床病期I期・II期に対しては手術療法が、III期・IV期については放射線療法、抗癌剤療法が選択されてきました。しかしながら、臨床病期Ib期やII期に対して、手術療法と放射線治療の治療成績に有意差はないとする報告も見られ、これらの病期の患者に対し手術療法または放射線療法のいずれかを選択するかは、年令、全身状態、合併症の有無などを基に決定されています。

子宮頸がんに対する、触診を含む術前の病期決定方法は必ずしも客観的診断法とはいえません。例えば、前出の治療ガイドラインの中に、「臨床病期IIb期を対象とした場合、子宮傍組織浸潤の評価における期別診断上の問題もあり、異なる施設間での後方視的解析結果の比較は極めて困難と考えられる」との記述があります。すなわち、各施設間の治療成績の横の比較は意味がなく、あくまである施設で子宮頸がんの治療した場合、どの位の5年生存がみこめるかという目安として当該施設の治療成績をとらえることが望ましいと考えます。

(参考文献)子宮頸癌治療ガイドライン 2007年版日本婦人科腫瘍学会/編 金原出版株式会社


上記コメントをお読みになられましたか?

  


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