治療データの公表は、患者を惑わすことのないように十分な配慮を加えることが最も重要で、誤った情報を公的機関が流布させる愚は是非とも避けなければならない。このため、生存率の公表にあたっては以下のような重大な問題が含まれていることを十分に周知させる必要があることを強調したい。
- 施設の相対的な優劣の評価に用いられかねないデータを、施設からの自己申告のみに基づいて公表するのは大きな誤りである。この点は、過去の臨床試験データの扱いなどでも十分に示されていることである。責任の所在を明らかにするために施設名を付し、かつデータの信頼性を保障したうえで公表する必要があることは至極当然である。最低でも、第三者による抜き取り調査などの外部監査を行う必要がある。
- 現在の登録システムでは、年齢など、ステージ以外の予後因子については全く考慮されていないため、施設間のデータの比較可能性は確保されていないことを明記、強調して混乱を避けるべきである。特に内科的な治療では、現在は疾患の特異性などに応じて様々な予後因子が抽出されたうえで治療の比較がなされるのが常である。本来は、全体のデータを解析した上でこのような予後因子を抽出し、予後予測モデルを構築すべきである。その上で、各施設の患者背景登録データから、その施設の期待生存率とその信頼区間を構成し、実際の施設の生存率がその信頼区間上のどこに位置しているかを示すべきである。それによって、各施設が全国平均と自施設の成績の差を把握することが初めて可能となり、治療を受ける患者にとっても真に有用な情報となる。
- 当院におけるデータについても、あくまでも診療科データベースからデータ抽出を行っているため、標準的な院内がん登録様式に則ったデータではない。また、内科症例が含まれずに早期の症例が多くを占めており、治療成績が良好との誤った印象を与えることがないように注意する必要があることも強調したい。